人を増やしたのに、社長や一部の管理職が忙しいまま。担当者はいるのに、確認待ちで仕事が止まる。こうした状況では、人員や個人の能力に加えて、仕事の分担と意思決定の仕組みを見直す必要があります。
誰が何を担当し、どこまで決められるのか。そして、分担した仕事をどうつなぐのか。今回は、「組織設計」の考え方をもとに、成長企業が確認したいポイントを整理します。
組織設計は「組織図を作ること」だけではない
組織設計というと、部署を作ったり、管理職を置いたりすることを想像するかもしれません。しかし、部署名と上下関係が決まっていても、仕事が円滑に進むとは限りません。
例えば、採用担当者を置いても、募集条件、選考日程、候補者への連絡を毎回社長が確認していれば、社長の仕事は十分には減りません。担当者が担う作業は増えても、判断が一か所に集まったままだからです。
専門ごとに仕事を分ける構造には強みがある一方、部門間の連携や意思決定が滞る弱点もあります。この視点を実務に置き換えると、組織づくりでは次の三つをセットで考えたいです。
- 役割:誰が、どの成果を担うのか。
- 判断権限:誰が、どこまで決められるのか。
- 連携:どの情報を、いつ、誰に渡すのか。
少人数で機能していたやり方が、成長後も機能するとは限らない
少人数の会社では、社長が状況を把握し、その場で判断する方法が機能しやすいでしょう。担当が曖昧でも、近くの人に声をかければ対応できる。細かなルールがなくても、互いの仕事が見えている。
ところが、人や案件が増えると、同じやり方では対応しきれなくなることがあります。
「誰かが対応していると思っていた」
「社長の返事を待っていた」
「別の部署も同じ作業をしていた」
こうした問題が繰り返されるなら、個人の注意力だけで改善しようとせず、仕事の進め方を確認することが大切です。
もちろん、知識やスキル、業務量に原因がある場合もあります。だからこそ、人の問題と仕組みの問題を分けて考える必要があります。
見直すポイント1 担当する作業と、担う成果を明確にする
「採用を担当してください」だけでは、どこまで任されているかが曖昧です。求人掲載までなのか。応募者対応も含むのか。採用計画の見直しまで期待されているのか。
作業と成果を分けて整理すると、役割が明確になります。
例えば、採用担当者なら次のように考えられます。
| 整理する項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 担う成果 | 合意した採用計画に沿って、選考を滞りなく進める |
| 主な作業 | 求人掲載、応募者対応、面接調整、進捗集計 |
| 自分で決めること | 合意した条件内での掲載内容や選考日程の調整 |
| 相談すること | 採用条件の変更、予算追加、計画の見直し |
| 最終決定者 | 採否や条件の決定について、会社が定めた責任者 |
これはあくまで例です。実際の範囲は、担当者の経験と会社の体制に合わせて決めます。
成果には、他部署や市場環境も影響します。責任を明確にする際は、本人が動かせる範囲も一緒に確認しましょう。
見直すポイント2 「任せる」と「確認する」の境界を決める
仕事を任せても、細かな判断がすべて上司に戻ってくれば、確認待ちは減りません。一方で、判断基準を伝えずに「自由にやって」と言われても、担当者は不安になります。
そこで、判断を三つに分けて整理します。
- 担当者が決めて進めること
- 担当者が決め、後から報告すること
- 実行前に相談・承認が必要なこと
例えば、決められた予算内の日常業務は担当者が進め、予算超過や契約条件の変更は事前相談にする、といった分け方です。任せる範囲とともに、判断基準、必要な情報、相談できる相手も用意します。担当者の習熟に合わせて、任せる範囲を広げることもできます。
経営者が確認したいのは、単に「何を任せるか」だけではありません。「どの判断を自分が持ち続ける必要があるか」も整理することが重要です。
見直すポイント3 仕事の受け渡しを設計する
役割を分けるほど、その間の連携が必要になります。
例えば、採用担当者が入社までを担当し、現場の管理職が入社後の育成を担当するとします。
担当は分かれていても、採用時に確認した本人の希望や経験が現場へ伝わっていなければ、育成や仕事の任せ方にずれが生まれます。そこで、受け渡す情報を決めます。
- 配属後に期待する役割
- 本人の経験と、育成が必要な点
- 選考中に確認した希望
- 入社前に説明した条件
- 入社後のフォロー担当と確認時期
共有する情報は、業務上必要な範囲に絞ります。
「しっかり連携する」という掛け声より、何を、いつ、誰へ渡すかを決めた方が、行動に移しやすくなります。
まずは、繰り返し止まる仕事を一つ選ぶ
最初から、全社の組織図や制度を作り直す必要はありません。
まずは、確認待ちや手戻りが繰り返される仕事を一つ選び、次の順番で整理してみてください。
- どこで止まっているかを確認する
情報不足なのか、担当不明なのか、判断待ちなのかを分けます。 - 担当者と判断する人を明確にする
作業をする人と、最終的に決める人を確認します。 - 任せる範囲と相談条件を決める
通常の対応と、例外の対応を分けます。 - 必要な情報と受け渡し方を決める
会議を増やす前に、共有する内容とタイミングを整理します。 - 運用後に見直す
確認待ち、手戻り、管理職の負担がどう変わったかを確認します。
判断を速くするだけでなく、品質やミスへの影響も見ます。問題があれば、基準や任せる範囲を調整します。
人が力を発揮できる仕組みを整える
採用や育成は、企業の成長に欠かせません。その効果を活かすには、入社した人が動きやすい仕組みも必要です。
誰が何を担うのか。
どこまで決められるのか。
困ったときは誰に相談するのか。
他の担当者とどう仕事をつなぐのか。
この四つが明確になると、社員は自分の役割を理解し、次の行動を選びやすくなります。
人を増やしても仕事が回らないときは、役割、判断権限、情報共有を点検する。それが、組織づくりの具体的な第一歩になります。
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