ぼくは採用の仕事をするとき、候補者が負担なくスムーズに、しかもエンゲージメントの高い状態で選考フローを進んでいるかを常に気にかけている。
採用担当者であれば、各媒体やエージェントのパフォーマンス、選考通過率、内定承諾率などの数字はもちろん見ていると思うが、ぼくはそれでは足りないと思う。数字には表れない感情や体験にも気を配り、タッチポイントを設計し、それを実行できる組織を作らないといけない。そうは言うが、最初からそう思っていたわけではなく、痛い経験があったらこんなふうに考えるようになった。
内定の返事(承諾)待ちの学生がゼロになった
以前勤務していた会社で、新卒採用担当になって1年目のこと。
その年の採用目標数は15名で、6月初旬には内定の返事待ちの学生が30名程度いた。だいたい「承諾/内定」の率は30%ぐらいと読んでいたので、「このままでいけば10人はかたい。6月以降でもう一度踏ん張り効かせれば目標数は問題なくクリアできる」と思っていた。
しかしそれから1週間以内に内定辞退(承諾しない)の連絡が立て続けにあり、承諾待ちの学生はゼロになってしまった。このときは正直焦った。このままだと目標数にいかないし、採用がこけると会社の経営に相当な負のインパクトを与えてしまう。同時になぜこのようなことになったのか冷静に分析した。
分かったのは、内定を出してからその後会社から全く連絡をせず待っていただけだったということ。つまり学生の立場からすると、内定はもらったけどその後は放置。これではその間に他社に流れてしまっても不思議ではない。自社へのエンゲージメントがゼロになってしまったということだ。この時に候補者の移行率だけ見ていてもダメで、もっと人間に寄り添ったアプローチが必要だと感じた。ちなみにこの後かなりがんばって、最終的には目標数を超える学生を採用することができた。
なぜ候補者満足を高める必要があるのか
ちょっと前だと、リクナビやマイナビを見てみんな同じスケジュールで同じコミュニケーションを取りながら選考を進むことが普通であった。画一的でのっぺりした印象だ。
しかし最近はそうではない。候補者は会社の名前やブランドに魅力を感じるのではなく、会社で働く人たちへの共感を求めるようなり、会社選びの軸の一つに共感というワードが入ってくるようになったと思う。では会社や働く人たちとの共感を生むためにはなにが必要か?それには会社のストーリー(ブランド)を感じてもらうことが必要であり、ストーリー(ブランド)は体験から生まれる。つまり候補者の体験(満足)を高めることが会社や働く人への共感を生み、より良い人材採用が実現するということだ。例えば以下のようなことが体験向上につながると思う。
・ブログやSNSで、会社の雰囲気を隠さずに伝える
・候補者とのやりとりは要件だけで済ませず、丁寧で心のこもったコミュニケーションをする
・n=1で考える(選考フローやコミュニケーションをその人に合ったようにカスタマイズする)
・不安に思うようなことは、予め情報として与える(面接の準備など)
・選考の状況を適切なタイミングで候補者に伝える(結果はいつ出るかなど)
・不採用の場合でも、理由をきちんと伝える
どうやって高めるのか
ぼくは「カスタマー・ジャーニー・マップ」(CJM)を使って、候補者(学生)にとってのペインがないか考えるようにしている。
・連絡手段をLINE@に統一
会社側(我々採用担当者)からすると以前のようにメールや電話でコミュニケーション取ろうと思ってもつながらない、候補者(学生)側はたくさんのメールや電話を受け取っていて、さらに他社の説明会や選考があるので連絡がつきにくい、結果お互いに連絡がつかず次の選考などの案内が遅れて、候補者はチャーン(離脱)してしまうような状況があった。
そこで候補者が一番連絡の取りやすいであろう、LINEに連絡のチャネルを絞った。LINEに当社の情報(LINE@の情報)を読み込んでもらう方法(友だち追加)も、ただ唐突にお願いするのではなく、説明会などの出欠確認もかねることで一連の流れの中に組み込み、候補者の負担を軽減している。
・内定通知後に懇親会などを開催
前述の問題の解決策として実施した。内定通知から内定承諾まで少なくとも2週間程度は時間が必要だ。その時に候補者は何を感じているのかを学生目線で考えて、内定者懇親会やプログラミング体験1dayインターンシップなどを実施して、学生の不安(内定ブルー)を取り除くようにしている。
上記2つは、以前の会社で実施した一例だ。候補者(学生)が会社を認知してから内定承諾し入社するまでをCJMに描きだす。ジャーニー上でペインがあればそれを取り除くような施策を実施し、全体の体験を向上させる。
どこでどのようなタッチポイントを持ちどのようなコミュニケーションをするのかもチーム内で共有した。これにより採用担当者によるブレを防ぐことができる。
また、面接ではあえて厳しめな質問をすることもある。その後の内定通知や面談の際にこちらから積極的なフィードバックを与える(もちろん明るい内容)ことで、前後の落差を付けたりもしている。なにより大事なことは、CJMを用いることで移行率だけ見ていては分からなかった、候補者(学生)の感情の浮き沈みを可視化することができ、適切な対策ができるということだ。
今回は採用という枠組みで話をしたが、人の関心が所有から利用に移り、サブスクリプションが台頭する現代においては、様々な場面で体験を向上させる必要があり、CJMを使うことで全体を俯瞰してみることができると思う。もちろん完璧なツールではないが、一つの方法として。
この記事のフック
・採用
・候補者満足
・カスタマージャーニーマップ(CJM)
・タッチポイント
・共感
・ペイン
・感情
2018年12月10日 永田勇気
※この記事は、2018年12月10日に公開した内容を一部修正したものですhttps://note.com/yuki_woody21/n/n04d03ca4aab0